TUT Formula

2007年度学生フォーミュラ大会参戦マシン TG02

コンセプト

豊橋技術科学大学自動車研究部 TUT FORMULAは,第5回全日本学生フォーミュラ大会参戦車輌「TG02」の開発にあたり,レーシングカーに求められる最大の要求が何であるかを議論しました.その結果「勝てる車輌であること」が最大の要求であるという結論に達しました.この要求を満たすため,我々は車輌コンセプトを「Faster than the Fastest. -より早く,誰よりも早く−」と設定し,次の設計指針に基づき各部の開発を行いました.

軽量

車両の質量は車輌にとって最も基本的な「走る」「曲がる」「止まる」といった運動性能にダイレクトに効いてきます.
加速性能をパワーウエイトレシオの観点で見ると,エンジンのパワーを上昇させることと車輌を軽くすることは等価であるといえます.
加えて,重量の減少は車輌の各部にかかる負担を少なくすることができ,材料の小径化,薄肉化が可能になります.TG02では昨年度より25%の軽量化で200kgという目標を設定し,各部品の昨年度重量に対する削減目標を決定し,軽量化を推進しました.
軽量化のフローに必要な入力の推定や構造解析はCAEアプリケーションを活用し,軽量化へ結び付けました.

シンプル

車輌の各部をよりシンプルに考えることで,部品点数の削減ができます.部品が少ないことは軽量化につながり,車輌全体の信頼性の向上にもつながるといえます.

パッケージング

パッケージングにおいては,重心高とヨー慣性モーメントに着目しました.
これらは旋回性能と回頭性に大きな影響を及ぼします.
具体的にはエンジンをミドシップに搭載し,オイルパンを加工することで昨年よりも搭載位置を昨年度より50mm低く設定.バルクヘッドや各種部品の配置も,可能な限り重心に近づけて配置しています.

フレーム

構造は昨年と同様のスチールスペースフレーム構造を採用しています.
MSC.Nastranを利用した構造解析により必要部材の選定,必要肉厚の見積もりを行い,必要十分な剛性を確保しています.
また,車輛前側のリアサスペンションのアーム取り付け部をメインフープ側へ移動することにより,バルクヘッドを1つ少なく出来るうえ剛性が必要とされる区間が短くて済むので軽量化に寄与できます.
材質は溶接性と溶接後の強度保証を考慮し炭素量の少ないSTKM11Aを採用しています.

サスペンション

サスペンションはダブルウィッシュボーン,プッシュロッドタイプを採用しました.
各部材への入力はMSC.ADAMSにより推定し,サスペンションアームに使用するパイプの径,肉厚を決定しました.ピボットは昨年のねじ付きロッドエンドからスフェリカルベアリングに変更しました.これらによりサスペンションアームとプッシュロッドでは1輪につき,70%(450g)の軽量化となりました.
アップライトはCOSMOS Worksを用いた構造解析により形状を決定しました.材質にはA7075 T6よりも高強度なアルミーゴHardT651を用いました.重量は前年度よりフロント52%(520g),リア58%(610g)の軽量化となりました.

ステアリング

ステアリングシステムは軽量化や最適なレシオを得るため,オリジナルのステアリングシステムを開発しました.
運転中にドライバーの腕が交差しないよう,ロックtoロックを3/4回転(270deg.)と設定しました.
歯車は.かみ合いが連続的に行われるヘリカルギアを採用しました.操作感や,強度の面で平歯車よりも有利です.
また,ラックやピニオンは中空とし,伝達トルクや座屈に対する強さを損なうことなく,軽量化を達成しました.
ラックケースは左右のフロントサスペンションアッパーアームの取り付け部を結ぶタワーバーを利用することで,極めてコンパクトなギアボックスとなりました.システム全体では昨年の市販車流用品と比較し,60%(4990g)の軽量化を達成しました.

エンジン

エンジンに求められる特性としては,高出力,軽量,コンパクト,補修部品等の入手のし易さ,等が挙げられます.
そこで,トランスミッション一体,軽量,DOHC4バルブなどによる高出力な特性を持つ,モーターサイクル用エンジンHONDA PC37Eを採用しました.
モーターサイクル用エンジンを4輪車に搭載する場合,オイルパンの高さにより,その搭載位置を下げることがでません.そこで,今年度はオイルパンに加工を施しエンジンの搭載位置を50mm低下させました.旋回Gによる油面の傾きに対してはバッフルプレートを追加することで潤滑不良が生じない構造としました.

吸気リストリクタの存在により,工場出荷時の出力を発生することができない上,カム,吸気管長,排気管長,燃料マップ,及び点火マップのパラメータの再設定が必要になりますが,ダイナモベンチによりこれらのパラメータの最適な組み合わせを調べました.
最大出力及びトルクの目標は70ps/10500rpm,5.5kgf-m/8500rpmとし,実際にはダイナモ上で6500rpmから10500rpmまでの到達時間を指標に評価しました.

吸気系

マスの集中化のため,昨年の後方吸気から側方吸気に変更しました.
軽量化のために材質はCFRPを導入しました.インジェクタホルダも昨年度は純正のスロットルボディからバタフライバルブを無効化したもの流用していましたが,シンプルなオリジナル設計品とすることで35%(530g)の軽量化を達成しました.

静的吸気抵抗削減のため,流速が最大となり圧力損失が大きいと考えられるリストリクタでは,ディフューザ,インデューサ角は圧力損失が最も少ない7deg.としました.

排気系

エキゾーストパイプには肉厚1mmの薄肉ステンレスパイプを使用し,重量の増加を抑えました.
昨年度のサイレンサはステンレス製の多段膨張式を採用していましたが,本年度はこれをチタン製のストレート方式へと改め,重量と排気圧力損失を低減しました.
集合方法には,滑らかなトルクカーブが期待できる4-2-1集合を採用しました.

冷却系

ラジエータは効率のよいパッケージングを実現するため,オリジナルラジエータの製作をラジエータメーカに依頼しました.昨年度のラジエータは銅コア製のもので,冷却性能には優れますが重量の面で不利でした.そこで今年度は材質をオールアルミニウム製とし,昨年のものと比較し58%(2220g)の軽量化を達成しました.材質の変更による冷却性能の低下はサイドポンツーンを設け走行風を冷却に効率よく用いることで補います.

燃料系

燃料タンクはドライバーシートとエンジンの間のデッドスペースを利用する形状とし,パッケージングレイアウト効率の向上に寄与しました.
タンクを構成する面をアルミ板で製作することで,昨年のスチール製燃料タンクと比較し,63%(3600g)の軽量化を達成しました.
タンクは前面から見た形状を逆三角形に近い形状とし,インタンク燃料ポンプを片側へオフセットして搭載しました.
さらにタンク内にバッフルプレートを設け,旋回Gを受けた際の燃料の偏りの影響を最小限にし,燃料が少ない状態でも安定した燃料供給を行えるようにしました.

ドライブトレイン

最終減速は昨年度と同様チェーン・スプロケットを採用しました.チェーンサイズは昨年度の530サイズから520サイズとし,チェーンとスプロケットでは40%(1024g)の軽量化を達成しました.

ブレーキ

ブレーキは前輪2,後輪1とし,昨年よりもリアブレーキを一つ減らしました.
ブレーキシステムはバランスバーを備え,前後輪の制動力配分の変更を容易に行うことが可能です.
後輪ブレーキ系統にはプロポーショニングバルブを設け,理想制動力配分線図に近づけました.
ブレーキロータはタッチに優れ,繊細なブレーキコントロールを可能にする鋳鉄(FC200)ブレーキロータをフローティングマウントしました.この鋳鉄ブレーキロータは内製することで,ロータ径,厚み,シェービング効果を得るためのスリットなど,自由な設計を行うことができました.
ブレーキマスタシリンダ及びバランスバーは,ドライバーのひざ下のデッドスペースとなっていた空間へ設置しました.これによりヨー慣性モーメントの低減と車輌全長の短縮が可能になりました.

ドライバーシート

ホールド性能の向上のため,成型の自由度が高いCFRP製シートを製作しました.昨年のアルミ板を用いたシートと比較し32%(900g)の軽量化を達成しました.
形状はCFRP成型用の型の製作段階に於いて,全てのドライバーが実際に着座することで,最もフィットする形状を検討しました.

操作系統

ドライバーの足下にはアクセルペダル,ブレーキペダルを配置し,クラッチレバーとシフトレバーは,ドライバー手元のステアリングホイール付近に配置しました.
2ペダル方式を採用したのは,ペダル空間に余裕ができることと,レーシングカートの操作感に近づけるためです.
また,シフトアップ時は点火カットを同時に行うことでクラッチ操作が不要となり,シフトロスの低減とドライバーへの負担の軽減が可能になりました.
シフト操作の伝達はプッシュプルケーブルにより行います.今回採用したプッシュプルケーブルは,アウターチューブ内面にテフロン加工がなされ,操作時の摩擦抵抗が少なく,ドライバーへの負担が低減されます.

計器盤

昨年はCBR600RRのインスツルメントパネルを用いていましたが,ドライバーへ伝える情報を簡素化し,走行時のドライバーへの負担を低減させる必要があると考えられたため,今年度はこれを内製しました.
このインスツルメントパネルはLEDを用いた16段階タコメータ,シフトアップインジケータ,ウォーニングランプで構成されます.このほかに水温,油圧を表示する情報パネルを装備し,ウォーニングランプ点灯時には異常箇所の特定を速やかに行うことができます.

カウリング

今年度はラジエータを効率よく冷却するためのサイドポンツーンを追加した上で,軽量化を実現するため材質をCFRPとしました.
空力性能の確認のため,1/24スケールモデルを製作し風洞実験を行いました.風洞実験では抗力と揚力の測定と流線の可視化を行いました.

車体電装

本年度は,F-SAE車輌には不必要なセンサなどの取り外しを行い,オリジナルのワイヤハーネスを設計しました.
メインハーネスはエンジン制御だけにとどまらず,各種安全装置を確実に動作させるためにも,その信頼性は非常に重要です.まず,実装面においては極力ハーネスに余分な負荷が掛からないような取り回しとしました.さらに,配線にはテープだけではなくコルゲートチューブ,保護チューブを適所に用いることにより断線の危険性を抑えるようにしました.加えて,各種電装品との接続には自動車用防水コネクタを用いることで,走行時の埃や雨天走行時の信頼性を確保しています.
メインハーネスの製作には4種類の自動車用圧縮導体型薄肉低圧電線(CAVSクラス0.3,0.5,0.85,1.25sq)を使い分けることでAV,AVSクラス配線に比べ軽量化,細径化を実現させています.

主要諸元

全長2460mm
全高1050mm
全幅1380mm
ホイールベース1550mm
トレッド 前/後1200mm / 1100mm
最低地上高30mm
車重200kg(燃料込み)
エンジンPC37E 599cc
最大出力(後軸出力)69ps/12200rpm
最大トルク4.9kgm/9200rpm
駆動方式MR チェーン駆動
サスペンション 前/後ダブルウィッシュボーン / ダブルウィッシュボーン
ブレーキ 前/後アウトボードツインローター / インボードシングルローター
タイヤ 前/後Hoosier 20.5 x 6.0 - 13 / 20.5 x 7.0 - 13